一冊の本から始まる旅。ET的ブックスケッチ『台湾漫遊鉄道のふたり』編
「旅×グルメ×シスターフッド」という贅沢な一冊
「本物の旅行はね、その地で生活することよ」
「つまり――?」
「つまりその地で四季の生活を体験するのよ。日常の生活をね。住み慣れた場所を離れて別の土地で暮らして、この世に生きる新鮮な感覚を取り戻すの。言ってみれば、心の洗濯みたいなものね」
――『台湾漫遊鉄道のふたり』(楊双子著、三浦裕子訳/中央公論新社)より
『台湾漫遊鉄道のふたり』の主人公は、著書が映画化され注目を集める作家・青山千鶴子。結婚をせかす親族にうんざりしている千鶴子は、映画に感銘を受けたという台湾の婦人会の招きにこれ幸いと、台湾に旅立ちます。
ときは台湾が日本の統治下にあった昭和13年。
好奇心旺盛でチャレンジ精神あふれる千鶴子は、親族たちから「妖怪のよう」と称される底知れぬ食欲の持ち主。
台湾でも「あれが食べたい」「これが食べたい」と大騒ぎする千鶴子を持て余したお役人は、台湾人の王千鶴(おう・ちず)を千鶴子の通訳として採用します。
奇しくも同じ名前を持つ女ふたり、台湾漫遊鉄道で13の都市を巡る美食の旅がはじまります。
鉄道に揺られ、台湾グルメを楽しみ、心の奥底を探り合う二人の「千鶴」
複数の言語を操り、教養深く聡明。さらには素晴らしい料理の腕前をもつスーパーウーマンな千鶴。
どうしてそんなに博識なのか、優雅な身のこなしはいったいどこで身につけたのか……。ミステリアスな千鶴にどんどん惹かれていく千鶴子は、「私たちお友達になりましょう」と無邪気に提案します。
しかし千鶴は、そんな千鶴子を笑顔でかわし続けます。
作家と通訳という関係、日本人と台湾人という国際上の立ち位置。
よく似ているようでやっぱり違う、二人の文化的・歴史的背景。「生活するような旅」を続けるうち、二人の間に横たわるものが少しずつあぶりだされると同時に、それがゆらゆらと揺らぐようになっていきます。
次々に登場する台湾料理(肉のうま煮、冬瓜の甘いお茶、伝説の女料理人が振る舞うフルコース……!)に食欲を刺激されながらじわじわ伝わってくるのは、旅という非日常がもたらす「ゆらぎ」の面白さ。
旅×グルメ×シスターフッドという、色とりどりの食卓のような一冊、どうぞご賞味あれ。
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