身体を見つめ、存在を問う。東京・六本木【森美術館】ロン・ミュエク展

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ロン・ミュエク、18年ぶりとなる日本での個展

オーストラリア生まれ・英国在住の現代美術作家であるロン・ミュエクの大規模個展が、東京・六本木の【森美術館】にて開催中。

今回の日本での個展は、2008年の金沢以来18年ぶり。作家とカルティエ現代美術財団との関係から企画され、パリの同財団での開催(2023年)を起点とし、ミラノとソウルを経て東京にたどり着いた巡回展となります。

初期の代表作から近作までの11点が一堂に会する、作家の歩みを一望できる構成です。

日本初公開作品も。
全11作品中、特に見逃せない作品は?

ロン・ミュエク《イン・ベッド》2005年 | 所蔵:カルティエ現代美術財団/2026年、森美術館での「ロン・ミュエク」展示風景

長さ6.5メートル、幅約4メートル。
巨大なベッドに横たわるのは、顎を手で支えながら上方を見つめている中年女性。

平凡な日常の一場面でありながら、モニュメントのようなスケール感が観る者を圧倒。

鑑賞者とは決して交わらない、彼女の視線の先には何が?

 

ロン・ミュエク《エンジェル》1997年 | 個人蔵/2026年、森美術館での「ロン・ミュエク」展示風景

日本初公開となる、ロン・ミュエク初期の代表作。

18世紀のイタリアの画家、ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロによる《ヴィーナスと時間の寓意》(1754-1758年頃)に登場する、時間を表す翼を持った老人から着想を得て制作されたそう。

スツールに静かに腰を下ろす翼を持つ男性に漂うのは、祝福よりも疲労、聖性よりも孤独。
物思いに耽る彼の佇まいは、時間が移ろうことの儚さ、そして私たちの存在意義までをも考えさせます。

 

ロン・ミュエク《マスクⅡ》2002|個人蔵/2026年、森美術館での「ロン・ミュエク」展示風景

作家自身が眠りに落ちた無防備な瞬間の顔を、約4倍の大きさで表現した作品。

唇の皺、髭の1本1本まで本物と見紛う生々しさがありながら、その裏側は空洞。

《マスクⅡ》というタイトル然り、また眠る仮面とともに夢の中へ落ちていくように、観る者は「本物」と「作られたもの」の曖昧な境界へと誘われます。

 

ロン・ミュエク《買い物中の女》2013年|タデウス・ロパック(ロンドン・パリ・ザルツブルク・ミラノ・ソウル)/2026年、森美術館での「ロン・ミュエク」展示風景

コートの懐に赤ん坊を抱え、両手を買い物袋でふさがれたひとりの女性。
ロンドンの交差点でふと目にしてすぐさまスケッチに描き留めたという、見知らぬ母親の姿から誕生した作品。

美化も批判もせず、ただそこにある日常の切なさを静かに掬い取っているよう。

原寸よりも小さなそのサイズが、彼女が背負う重荷を強調しているようにも感じられます。

 

ロン・ミュエク《マス》2016-2017年 | 所蔵:ビクトリア国立美術館(メルボルン)、2018年フェルトン遺贈(一部)/2026年、森美術館での「ロン・ミュエク」展示風景

展示の後半で観られるのは、100点の頭蓋骨から成る大規模なインスタレーション《マス》。

各美術館の展示空間に合わせてつくり上げられるため、森美術館での展示も唯一無二のもの。

ひとつの部屋に集められ「マス(Mass)」として認識されてしまう頭蓋骨も、よく観るとひとつとして同じものはありません。
西洋美術が繰り返し向き合ってきた「メメント・モリ(死を忘れるな)」というテーマの片鱗も。

作品の中を歩き回る間に、個と集団、生と死など、さまざまなことを深く考えさせられます。

制作の秘密に迫る写真作品や映像も必見

ゴーティエ・ドゥブロンド《ロン・ミュエクのスタジオ、ロンドン、2005-2013》(一部)/2026年、森美術館での「ロン・ミュエク」展示風景

本展のもう一つの見どころが、フランスの写真家・映画監督ゴーティエ・ドゥブロンドによる制作過程を記録した写真作品の展示や、ドキュメンタリーの上映。

完成品からは想像しにくい、素材と格闘する制作現場のリアルな姿が映し出されています。

 

あたかも今そこに存在しているような生命感を持ちながら、どこか現実の外側にいるような不思議な距離感。

ロン・ミュエクの作品を前にすることで、私たちは自分自身や他者の「存在」を深く考え、そしてそれらの「関係」を問うことになるでしょう。

 

WRITTEN BY

新井 美由紀

Miyuki Arai

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