一冊の本から始まる旅。ET的ブックスケッチ『カレル・チャペックの見たイギリス』編

異文化を旅する作家
どうかお願いです。私に大陸にまっすぐ行ける切符をください。――『カレル・チャペックの見たイギリス』(カレル・チャペック著、来栖茜訳/海山社)より
第一次世界大戦後の、一時的に平和が訪れていた時代。斬新な作風で注目を集め、ヨーロッパの文学界でも話題となっていたチェコ人作家・カレル・チャペック。
ペン・クラブからの招待で約2か月イギリスを旅することになったカレル・チャペックですが、その旅行記をチェコの新聞で連載することになりました。
その連載記事を一冊にまとめたのが、この『カレル・チャペックの見たイギリス』です。
本人の手によるイラストが添えられた「イギリス評」は、素朴で率直。読んでいて思わずニヤリとしてしまうユーモアにあふれ、独特の島国精神に貫かれたイギリスの文化に目を白黒させる若き作家の姿が目に浮かぶようです。
イギリス人は不思議な生き物?
静まり返るロンドンの街並み、古城のような大学の学生寮、夢中でスケッチしてしまった湖水地方の動物たち。
“プライベート”という言葉が絶対の価値をもち、大英帝国の歴史と格式・生活習慣を厳守して生きるイギリス人。
人と人との出会いや喧騒、セレンディピティに満ち溢れた大陸側のヨーロッパの国々と比較して、イギリス人はとてもユニークだとカレル・チャペックは描きます。
そして一方で、口数は少ないが親切で、エチケットがしみついていながら子供のように自由な精神をもつという彼らの面白さにも目を留めるカレル・チャペック。
旅から学ぶ、多様性社会の在り方
本の最後には、「イギリス人のみなさまへ」と題したエッセイが。
イギリス人がイギリスという島国にとどまるかぎりは、これは彼らの問題です。しかし、世界のどこかに出かけてもこの島国根性を持ち続けていると、ちょっと具合の悪いことが起こると思います。――『カレル・チャペックの見たイギリス』より
カレル・チャペックの鋭い指摘は、「旅とは異文化体験である」ということを改めて思い出させてくれます。
自分とは違う価値観をもつ人々と、どう共生していくか……。
ユーモアあふれる可愛らしいエッセイでありながら、現代にも通じる問いかけをはらんだ、めっけものな一冊です。
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