旅は楽しい。でも……“重い”。
「そうだな。なんでも自分のものにして、もってかえろうとすると、むずかしいものなんだよ。ぼくは、見るだけにしてるんだ。そして、立ち去るときには、それを頭の中へしまっておくのさ。ぼくはそれで、かばんを持ち歩くよりも、すっとたのしいね」――『ムーミン谷の彗星』より
旅は楽しい。でも……、疲れる。
「忘れ物がないように」と睡眠時間を削って荷造りをして、旅先でも「せっかくだから思い出を持って帰りたい」と焦って買い物をして……。
リラックスしたり新しい経験をすることが目的だったはずの旅なのに、“もの”に振り回されてすっかり疲れてしまったという人は少なくないのではないでしょうか。
重たいかばんにため息をついている人たちへ、冒頭に引用した、スナフキンの言葉を贈ります。
テントとパイプとハーモニカだけを携えて
旅を続ける「永遠の旅人」スナフキンが教えてくれること
『ムーミン谷の彗星』(ヤンソン著、下村隆一訳/講談社文庫)は、フィンランドで生まれたムーミン・シリーズの第二作目。
ムーミン谷でムーミンパパ・ママと暮らすムーミンは、「彗星が地球に衝突する」という話を聞いて、友だちのスニフと真相を探る旅に出ます。
旅の途中で聞こえてきた、ハーモニカの音色。
ムーミンとスニフが出会ったのはスナフキン。
古い三角帽子をかぶり、テントとパイプとハーモニカだけを携えて旅を続ける「永遠の旅人」です。
「永遠の旅人」が教える、身軽な旅の極意
スナフキンの案内で天文台を目指しますが、寄り道した宝石の谷間や雑貨屋さんで、ついつい物欲にかられるムーミンとスニフ。
思うように欲しいものが手に入らず落ち込む二人に、スナフキンは「ものはなるべく増やさず、持ち歩かない」という生き方を披露します。
「ぼくのリストはいつでもできるよ。ハーモニカが星三つだ」
スナフキンは、そういってわらいました。――『ムーミン谷の彗星』より
「あと4日で彗星が地球に衝突する!」
どうくつに避難することになったムーミン一家は、ひっこしの準備に大慌て。
持っていくものをリストにして、星の数で優先順位がわかるようにして……。そんな中でも、荷物の少ないスナフキンは涼しい顔。
ものに執着しない身軽な旅は、私たちの心も軽く、自由にするのかもしれません。
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一冊の本から始まる旅。ET的ブックスケッチ『ムーミン谷の彗星』編
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