「逃げ出すため」に旅行に出かける心情とは?
「この旅って、アーサー、ボーイフレンドの結婚式から逃れるためのものなの?」
「ボーイフレンドじゃない。それより、混乱を避けるためかな」
――『LESSレス』より
気分転換に、美しいものを見に、美味しいものを食べに、新しい発見を求めて……。
旅する理由は人それぞれ。旅行のウキウキ・ワクワク・ドキドキを描く本は、世の中にたくさんあふれていますよね。
しかし、「逃げ出すため」に旅行に出かける主人公は、なかなか珍しいのではないでしょうか。
2018年ピュリッツァー賞受賞作の
仕事を口実に世界中を旅して回る物語
『LESSレス』(アンドリュー・ショーン・グリア著、上岡信雄訳/早川書房)は、2018年のピュリッツァー賞受賞作。50歳を目前にしたゲイの小説家アーサー・レスが、元恋人から結婚式の招待状が届いたことでパニックを起こし、仕事を口実に世界中を旅して回る物語。
若い頃の作品で注目され、著名な詩人の若き恋人として名を馳せたレスだが、今は正直落ち目。
エージェントには新作の発表を渋られているし、そもそも執筆はなかなか進まない。
そんなレスの元に世界中から届く仕事のオファーは、どれをとってもなんだかヘンテコリン。
メキシコから始まり、イタリア・ドイツ・フランス・モロッコ・インド、そして日本の京都。
パネリストとして参加するために訪れた学会でだまし討ちのような目に遭ったり、朗読会で観客が次々と体調不良で気絶したり、大昔に愛した詩人の恋人が倒れたという知らせが入ったり……。
レスはまったく旅行に集中していないし、正直さほど楽しんでもいない。
何をしてもなんだかうまくいかず、本人は大真面目なのになぜだか軽く扱われがちで、すぐ人にからかわれてしまう気の毒なレス。
あとは太平洋を越えるだけ。ここまでの旅路で多くのものを失ってきた――恋人を、威厳を、顎鬚を、スーツを、それからスーツケースを。
――『LESSレス』より
そして最後に明らかにされる、この物語の語り手の正体。
いつでもちょっと「レス(足りない)」だったアーサー・レスが、世界一周旅行の末にたどり着くのはハッピーエンド? それとも?
疲労困憊のレスを待ち受けるサプライズを、読者の皆さんもぜひお楽しみに。
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一冊の本から始まる旅。ET的ブックスケッチ『LESSレス』編
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