旅のことを軽快なテンポで語る一冊
編集者も知人も連絡をしてくるときは「いまどこにいるんですか」が枕詞のようになっていた。「自宅ですよ」と答えたら「どうしてですか」と言われたこともある。
――『フーテンのマハ』(原田マハ/集英社文庫)より
『楽園のカンヴァス』『暗黙のゲルニカ』など、実在のアートやアーティストをとりあげた小説が人気の作家、原田マハさん。世界中のアートを「友達」と呼び、好奇心旺盛で美味しいものも大好き。そんな原田さんは、根っからの「移動好き」でもあります。
エッセイ『フーテンのマハ』
寅さんにあやかって「フーテンのマハ」を自称する原田さんによって軽快なテンポで語られている本書。
本の中で語られているのは、これまで経験してきた行き当たりばったり旅・グルメ旅・アート旅・お買い物旅のこと。
「なんとなくあっちの方角に何かありそう」と出かけた旅で出会った奇跡の食卓、留守番のご主人が目を白黒させる珍妙なお土産たち。
そして、「もはや、移動そのものが目的なのでは?」と言いたくなる複雑怪奇なロジスティクスを嬉々として練り上げる原田さん。
新作小説の取材のために、長期滞在したフランス・パリでの出来事も印象的。
旅の中でも魅力的な、通称「ぼよグル」
「ぼよグル」は、ぼよよんと楽しむグルメ旅のこと。原田さんの学生時代からの友人、御八屋千鈴(おはちやちりん)さんとの女二人旅。
原田さんが40歳のとき「一生をかけられる仕事がしたい」と当時勤務していた大企業を辞めたことが、このぼよグルがスタートするきっかけだったそう。
地元のおいしいものを食べ、美しい風景に歓声を上げ、ローカルな電車とバスを乗り継いで窯巡りをし、民芸品を買い漁り、宿に着いたらひたすらゆっくりぼよよ~んとする旅。――『フーテンのマハ』(原田マハ/集英社文庫)より
フリーランスの原田さんと会社員の千鈴さん。二人は多忙なスケジュールを調整し、定期的に全国各地を旅して回ります。
気ごころ知れた友人と美味しいものを食べ、心を解放してぼよよ~んとする数日間。
今や売れっ子作家になった原田さんにとって、ぼよグルは癒しであり、日々を頑張るための目標であり、作品を産み出すインスピレーションの源でもあるようです。
原田さんの明るいおしゃべりが聞こえてくるようなエッセイを読んでいると、なんだか自分も一緒に旅しているみたい。そして、「あぁ、私も旅に出たい!」とウズウズ・ソワソワ……。
そんな「旅欲」をくすぐる一冊、ぜひ手にとってみて下さい。
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一冊の本から始まる旅。ET的ブックスケッチ『フーテンのマハ』編
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