一冊の本から始まる旅。ET的ブックスケッチ『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』編

ヴェネツィアの古書店で耳にした、
「旅する本屋」をなりわいとする村のはなし

この人たちは、きっと神様から選ばれた特使なのです。〈さあ旅に出なさい。世界じゅうに文化を届けるのです〉とね――『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(内田洋子/文春文庫)より

 

ヴェネツィアの古書店で耳にした、「旅する本屋」をなりわいとする村のこと――。

イタリアに在住し、かの地の情報を日本に発信するエッセイスト・内田洋子さん。『ジーノの家 イタリア10景』『皿の中に、イタリア』『対岸のヴェネツィア』など、多数のエッセイ本を発表しています。

内田さんが「ヴェネツィアの水先案内人であり知恵袋」と称する古書店にて、ふと店主が語り出したのはモンテレッジォという村のこと。

トスカーナの山深い村・モンテレッジォに住む男たちは、生きるために行商に出るのがならい。

彼らが売り歩いたもの、それは「本」でした。

 

小さな田舎の村で、「旅する本屋」が生まれた理由とは?

小さな小さな田舎の村で、なぜ「旅する本屋」が生まれたのか……。興味をひかれた内田さんは、山々を越えてモンテレッジォを訪れます。

取材当時(2018年)、モンテレッジォの人口は32人。少しずつ過疎化が進む村で、一人、また一人とモンテレッジォの歴史を語ってくれる人を見つけてインタビューする内田さん。

1800年代のある時期、村の主要産業が農業から行商に変化したのは、悪天候が続いたことが理由でした。「何を売りに行こう」と村人がまず手に取ったのは、聖人の祈祷入りの絵札と生活暦(カレンダーのようなもの)。

その後、ヨーロッパの識字率が上がるにつれて、売り物が本に変わっていきます。

当時の書店は高価で難解な本ばかり扱っており、一般庶民には敷居が高い存在でした。
読みやすく、気軽に楽しめる本を人々に届けたのは、「旅する本屋」が各地で開く露店。

行商人たちは、イタリア全域、さらにはヨーロッパ各地を行脚し、野菜やパンが売られる市場の中で、自分たちの旅物語を披露しながら本を売っていたのでしょう。

そして人々は、「旅する本屋」と「手に入れた本」の二つを通して、心の旅に出かけていたのではないでしょうか。

 

幾重にも折り重なる無数の旅路と美しい写真で読書の旅へ

けっして穏やかではない情勢が続くが、だからこそ人々は本を求めていたのではないか。一冊あれば、昔にも未来にも旅することができる。――『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』より

「旅する本屋」モンテレッジォの村人たちの旅、読書という旅……。
そして、それを追いかける内田洋子さんの旅。

幾重にも折り重なる無数の旅路が、美しい写真とともに納められた一冊。ぜひ、手に取ってみて下さい。

 

 

WRITTEN BY

梅津 奏

Kana Umetsu

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